少し気持ちが落ちついたあと、夏美が話していた事を思い出す。
そこからまず智子さんに連絡した。
『あら、社長こんな時間に珍しい。夏美ちゃんから相談は受けました?』
そう聞かれて、俺は素直に聞いた。
『その件でゴタゴタがあって。昼間いったい何があったんです?』
『実は・・・』
そこから聞いた話に、俺は夏美にとって一番まずい選択肢を引いて帰ってきたことに愕然とした。
『夏美は、その後どうしてました?』
『あまりにも淡々とはしてたけれど。元々あの子は割り切った感じの子でしょう?生い立ちのせいだとは思うけれど。だからこそ探されるのは迷惑だなと思いつつもどう断るかの相談を社長や副社長にしたかったんだと思うわ。今の生活に夏美ちゃんは満足そうだったし。それは一緒に生活してる社長達もでしょう?』
『えぇ、それはもちろん。それが早く分かってたらこの事態にはならなかったんだけど。その番組のディレクターが知人でね。無理を押し切られて自宅まで付いてこられたら、その話をし始めてしまって・・・。その、夏美が、家を出ていっちゃって・・・』
沈黙のあとに、智子さんは呆れたように続けた。
『はぁぁ。情けない。何ですぐ追いかけなかったの!社長にとって夏美ちゃんはやっと見つけた唯一の存在だと思ってたけど違かったのかしら?』
やはりバレていたとは思いつつ、俺は隠すことなく答えた。
『もちろん、大切な存在。やっと見つけたんだ。でも、その夏美を傷付けて間に合わなかった。本当に情けない、いい歳して…』
『ホントにね。とりあえず夏美ちゃんの行きそうなところに片っ端から連絡掛けて聞きなさい。でももし、夏美ちゃんから連絡が来て、少し一人になりたいと言うのなら耐えなさい。あなたと夏美ちゃんが築いた時間と関係を信じて待ちなさい。いい歳の大人で男でしょ?』
そう、締めくくられて電話を終えると
「夏美は、ここの所どこかで何かを考えていたわ。きっと戻ってきてくれるわよ。せっかくの夏美の料理無駄にしないわよね?」
そうサチに言われて夏美の作ってくれたものを食べる。
食欲なんて無くなっていたけれど、それでも夏美の料理はきちんと優しい、いつもの夏美の味がした。