「島田社長!大変申し訳ありません。うちのモデルがご迷惑をおかけ致しました」


物凄い勢いで、平謝りしている向こうの社長さん。


あっちゃんやさっちゃんよりは歳上で、智子さんに近いだろう年齢の男性だ。
そんな人が謝る姿に葵さんは、驚いていた。


「え?社長?なんで?」

目を丸くしていた。
彼女は何も分ってなかったのだろう。


私もイチさんやレンさんに聞いて知ったのだけれど、アカリさんの御両親はお父さんは大手タレント事務所の社長。
お母さんは有名アパレルメーカーの大御所デザイナーでこの業界では力を持っているのだ。

ここにある服の多くは、そのお母様やそのお弟子さんデザインの最新流行の物が揃っている。


そこに一流の腕を持つスタイリストやヘアメイクアーティストが所属してるのだ。
芸能業界では、ここを敵に回してはやっていけない会社と言われているのだ。


葵さんはそんな事も知らなかったのだろう。


知る人ぞ知るだからこそ、おおっぴらにはなっていないけれども少しでも周りに聞けば分かることなのだ。
その事を知りもしなかった時点で、彼女の仕事ぶりやらが伺えるというわけである。


あっちゃん自身は御両親とも仲良くやりつつ、しかし独立した企業としてやっているので、頼りきったり寄りかかったりはしていない。


現にお父さんの事務所タレントとのお仕事もするが他の事務所とだってやりとりはある。


親子だけど仕事では対等、というのが島田家流らしいのだ。


そんな感じでやってるあっちゃんは、それなりに芸能業界でこの仕事としての立場を確立しており、どこぞの小さな囁きはモデル事務所程度では太刀打ちできないのだ。


なにしろ、現在業界でフリーランスでやっていない人の6割のヘアメイクアーティストとスタイリストがこの会社に所属しているの。
事務所の佇まいこそ小さくこじんまりとしているが、実はなかなかの大手なのだ。