_______ガラッ。

病院のVIPルーム専用の個人室。

そこに、酸素マスクをかけ、寝ていたのが、美紀子さんだった。

「…………………美紀子さん!」

メイドさんから聞いた話。


『颯真様が記憶をなくされたのはご存知ですか?』

『えぇ』

『実は、颯真様はこちらへ来て3ヶ月経つか経たないかぐらいの時に、休日を使って、元いた場所へ帰られようとなさいました』

『…………………颯真が!?』

『えぇ。奥さまも一緒に戻られるようで、旦那様に許可をもらい出かけられました。しかし、その日。タクシーで飛行場へ向かわれる道で、飲酒運転の大型トラックの追突事故に巻き込まれてしまわれました』


『………………そんな!』


『タクシーの運転手とトラックの運転手は即死でした。颯真様は幸い軽傷で済みましたが、その代わり記憶をなくされました。奥さまは颯真様を庇われたそうで、重症でした。幸い命は繋ぎとめましたが、今も昏睡状態。目を覚まされないのです』

…………………命が助かっただけでも嬉しいのに。

こんな結果になって悔しい。

なんで、よりによってこの2人なの?

酷いよ………………。


「美桜……………」

「あのメイドさんは、颯真のお父さんに深く事情を語れなかった。それは分かる。侍従関係だもの。そして、美紀子さんはこうなっていた。そりゃあ、もちろん幼なじみだったなんて、言う人もいない」

颯真のお父さんとは会ったことなかったし。

「私、またここに来る」

「……………うん」

この日は悲しみと悔しみの感情を抱いて終えた日だった。