うっとりと眺めていると、隣からあり得ない言葉が聞こえた。

「じゃあ、ここで結婚しようか」

あり得なさ過ぎて秒速で振り向くと、そこにあったのはとびきり嬉しそうな笑顔。せめて悪戯してやった、みたいな顔だったら対処出来たのに、愛しいと聞こえてきそうなむせ返るような甘い笑顔に真っ赤になって俯くしか出来なくなる。

その後は係員と涼介がやり取りするのを聞いて、別れ際に資料をもらってお礼を言って。全てがぼんやりとしているうちに進んで、ハッと気付いた時には涼介とタクシーに乗っていた。

「ーーーえ？」

「お、やっと意識戻った？」

「意識戻ったって……意識はあったし」

ただ涼介の放つ甘さに対処できなくて思考が停止してただけだ。