「どうやらミズイさんと柏木君には込み入ったお話もあるようですが、それはまた後で、場所を移してからにして頂けますか?先ずは紅栄堂さんとうちのとご挨拶を終えてしまいましょう」

流石の年の功。先程までの、いや今だって驚いているだろうに、それを一切感じさせない落ち着きで部長が提案した。涼介に向けた営業スマイルは大人の余裕さえ感じさせる。

「そうですね。これは失礼しました。じゃあ、湊」

部長に向かって軽く頭を下げた涼介が一歩前に出る。私の前、至近距離だ。

「二人の話はまた後で。あぁでも『待たない』って言ったのは撤回しないから」

軽く屈んで、私の耳の近くで囁くのは、言外に「覚悟しとけ」の意味を含んだ涼介の意思表明。大きく目を見開いたまま返事も出来ずにいる私に、ふっと笑って更に顔を近づけて。

三度目のキスは応接室、梨花さん達が見ている前で、私の額に落とされた。