【短】君とホットケーキ



「晴斗先輩……」



 帰りたくないなんて嘘。
 わたしは、やっぱり晴斗先輩に会いたかった。
 傍にいてほしかった。



「歩美」



 動けなかったその間に、晴斗先輩はわたしの目の前に立つ。



「歩美」

「晴斗先輩……」



 人目もはばからず、彼が抱きしめてくる。
 ちょうど胸に顔を埋める形になるので、晴斗先輩の鼓動が聞こえる。



「ごめんなさい」

「なんで謝ってるの?」



 晴斗先輩に言われて、訳がわからなくなってしまった。わたし、なにに謝ったんだろう。



「ホットケーキ、うまく作れなかった」



 ふと思い出した朝の出来事。
 一枚目どころじゃなく、みんな失敗だった。



 思い出して、泣けてきて、わたしはその勢いで聞いてしまった。