そして学校の校門が見えた時、あたしはついに立ち止まってしまっていた。


今教室へ向かってもきっと誰も来ていないだろう。


先に職員室へ行って幸穂のことを質問することはできる。


けれど、1人でその話を聞く勇気なんて持っていなかった。


あたしはその場に立ち尽くし、灰色の校舎を見上げた。


この狭い空間でも何百人という人間がいて、色々な物語が繰り広げられている。


そしてその物語が繋がり合い、重なり合い、1つの学校を作り上げていたのだ。


それなのに、幸穂だけがそのストーリーからポンッと抜け出してしまったのだ。


そしてもうこの物語に戻って来ることはないのだ。


幸穂が抜けた後の物語がどうなっていくのか、あたしはまだ想像もつかなかった。


「リナ?」


そう声をかけられて振り返ると、寛太が立っていた。


寛太もあまり眠れなかったのか、目の下にクマができている。