好きな人に会う事だってできなかったかもしれない。


傷ついて汚されてしまった自分を見せることなんて、できなかっただろう。


「お願いミズキさん。相手の名前を教えて」


あたしは誰もいない空間へ向けてそう言った。


「あたしはあなたの力になりたい。彼の事も助けてあげたい」


ミズキさんを愛するあまり、その愛情が歪んだ形で出てきてしまった。


彼もまた苦しいだろう。


ミズキさんの呪いを拡散させることで、ミズキさんに縛られているのは彼自身だ。


「お願いミズキさん」


懇願するようにそう言うと、地下室に優しい風が吹いた。


それは死者の魂が作った風だった。


「松田裕」


響くような声が聞こえてきて、風は止まった。


松田裕……。


それが、ミズキさんと愛し合っていた男性の名前。


ミズキさんの呪いの動画をつくった人物の、名前……。