「その水害が、この町にもやってきたんだ。あの河が氾濫するなんて、本当に久しぶりのことだった」


「去年河が氾濫したんですか?」


そう聞いたのは寛太だった。


「あぁ。それでも昔ほどの被害はなかった。川幅も広くなっていたし、避難勧告もすぐに出された。けれど……ミズキの両親が河の様子を見に行ってしまったんだ」


男性は思い出すようにそう言い、河のある方向へ視線を向けた。


「鉄砲水って知ってるか? 穏やかだった場所に突然沢山の水が襲ってくる現象だ」


「聞いたことがあります」


あたしは頷いた。


「その鉄砲水にやられて、ミズキの両親は河に流されたんだ。3人家族だったミズキは一気に1人ぼっちになっちまった」


その言葉にあたしは廃墟を振り向いた。


この家の人たちは全員亡くなってしまったのだ。


そう思うと、呼吸ができないほど胸が苦しくなった。