霊安室の前に立ってどれくらい経っただろう
ただ現実を認めたくなくて
この現実が夢であったらと幾度となく願った
それでもやっぱり、これは現実で
「慧……その怪我……っ、」
今にも泣きそうな母さんと手を引かれる雅の顔を、俺は見れなかった
「嘘……でしょう……?
ねぇ、あなた……いや、いやあぁぁぁあっ!!!!」
俺のせいだ
俺が母さんの言うことを聞いていれば
所詮ただの中学生でしかなかったのに、自分の力を過信して
あの空間を守りたかっただけなのに、逆に壊してしまった
俺が……親父を殺した
その事実だけが、俺の胸を深く抉る
「慧、雅。……帰りましょう……。」
そういつも通りに言う母さんに、俺は何も言えなかった
親父が亡くなって葬式などもありバタバタとした日々が過ぎた
"忙しさで辛いことも忘れていられる"と誰かが言ったが、まさにその通りだ
だから俺は気づけなかった
親父が死んで一番傷ついた人の心に
「……なんで……なんで今日なんだよ……っ。」
リビングのテーブルには、手紙とケーキが置いてあった
今日は雅の誕生日
そして……母さんが出ていった日
手紙の内容はきっと俺への怒りや恨みが込められているんだろう
それを高校生になった今でも開けずにいる
俺が殺した
その事実が足元から這い上がってくる
出ていった母さんが悪いんじゃない
母さんや雅から親父を奪った俺が悪いんだ
あの日から母さんが一度も泣かなかったのは……現実を忙しさで塗りつぶしていたからだ
「お兄……ちゃん……?」
手紙をポケットにねじ込み、雅に笑いかける
俺にはそんな資格ないのに
「母さん仕事で当分帰ってこないって。
だから、ほら……誕生日おめでとう。」
そして俺は、嘘をつく
「わぁっ!!ありがとう!!」
俺はもう雅のためだけに生きる
自分のために生きることなど許されない
この罪を一生背負って生きていく
それなのに……
雅の身体が急に傾いて、倒れた
「雅っ!?」
胸を抑えて苦しむ雅
遠くから聞こえる救急車のサイレンが、あの時の警察のサイレンと被って聞こえた
なぁ、神様
俺の罰はこれじゃ足りないのか……?
あんたは、雅まで奪っていくのか……?


