消極的に一直線。【完】

 ◆◇◆◇


 あれからもう、一時間ほどが経ったと思う。

 数学の問題集も、もうすぐ期末テストの範囲の分が終わる。


 だけど、なぜか、意識が目の前にそびえる本棚の向こう側に向いてしまう。

 ふと、聞こえてくる、小声の会話。鈴葉ちゃんと颯見くんの、仲良さげな会話。

 最後の一問を解き始めようとしたとき、また、声が聞こえてきた。


「嵐、このスペル間違ってる。エーじゃなくてユーだよ」


「え、マジ」


「うん。ほんと嵐は英語弱いよねー。カズはどの教科も完璧なのに」


「なんだよ。言っとくけど、体育祭のリレーは俺が勝ったからな」


「まだリレーの勝負なんかにこだわってんのー?」


「体育祭前は、カズに勝つのは絶対無理だって鈴葉が言ったんだろ」


 ふっと思い出した、体育祭での颯見くんの言葉。


『頑張る哀咲見てたら、俺、やっぱり誰にも負けたくないって思った』


 なぜか、ズキっと針が刺さったように、胸が痛みを訴える。

 私が颯見くんの言葉や行動に動かされているように、颯見くんも鈴葉ちゃんの言葉に動かされているんだ。


「そりゃーね。嵐はリレーでカズに勝ったことなかったもん」


「今回は勝ったから」


「ほんとに負けず嫌いだなぁ。じゃあ、今度は英語の点数でカズを抜いてみてよ」


「いいよ、やってやる」


「……二人とも、喋らずに勉強しようよ。ここ図書室だし」


「あ、そうだね」
「あぁ、ごめん」


 どうしてだろう。さっきから、鈴葉ちゃんと颯見くんの小声の会話を聞くたびに、胸に何かがつっかえて、チクチクと痛い。


 以前から感じていた胸の奥でモヤモヤと渦巻くもの。それが、良いものではないことは、なんとなくわかる。