「あ、(しずく)ちゃんだ! おはよう!」


 透き通る声が、背中の方から私の名前を呼んだ気がして、鞄をまさぐっていた手を止めた。


 この学校で私に声をかけてくれる人は、一人しかいない。
 

 振り向くと、予想通り。

 花のような笑顔を向けて、手を振りながら小走りで近づいてくる中雅(なかまさ)鈴葉(すずは)ちゃん。
 

 胸辺りまでのまっすぐな黒髪がさらさらと風になびいて、程よい短かさの制服のスカートも走るたびに揺れて。

 その整った顔立ちと、春の花のような雰囲気が、私の目も周りの目も惹きつけて離さない。


 鈴葉ちゃんは、そのとび抜けて整った容姿と、明るく誰にも隔たりのない性格で、高校入学当初から人気者。

 サッカー部のマネージャーをしていて、噂によるとマネージャーなのにファンクラブがあるらしい。


「お、おはよう!」


 私が応えると、鈴葉ちゃんはまたふわりと笑った。