「もう何言ってんのー」


 背中の方から聞こえた透き通る声にハッとする。この綺麗な声は、間違いなく、鈴葉ちゃん。


 進めていた足を止めて、声の方に振り向く。

 やっぱり鈴葉ちゃんだ。

 予想通りの姿を見つけて、声を掛けようと足を踏み出した――けど。

 もう一歩近寄ろうとした足は、動くことなくその場に留まった。


 鈴葉ちゃんの、ふんわりと笑った横顔。その笑顔の先には、くしゃりと笑う、男子。

 並んで歩くその二人は、何とも言えないぐらい、自然で、ぴったりで。


 春の花みたいな鈴葉ちゃんと、春風みたいな昨日の彼が、一緒に登校してる。


 どうして。

 なんていう疑問は、あまりにも二人が自然すぎて、答えを探る前に、なんだか納得してしまった。


 
「じゃあ、今夜はアラシの家にお邪魔するね」


「おう。待ってるな。カズにも伝言よろしく」


 ふと耳に届いた二人の会話を聞いて、そうか、とさらに納得した。


 アラシ。そっか。彼は、あの“アラシ”くんだったんだ。

 鈴葉ちゃんの会話にたまに出てきた、幼なじみの“アラシ”くん。

 もう一人の幼なじみの朝羽くんと、鈴葉ちゃんのことを取り合っているという“アラシ”くん。


 胸のなかで何かがキュッと摘ままれたような感触を覚えて、思わず、二人の方に向けていた身体を百八十度方向転換させた。


 背中越しに、二人がいる。その気配が、どこか居心地悪く感じて、北校舎まで、ただまっしぐらに走り抜く。

 靴箱でさっさと上靴に履き替えて、またひたすらに階段を走った。