消極的に一直線。【完】

 翌日、なぜかいつもより早く目が覚めてしまった。枕元の置時計に目をやると、ちょうど五時。


 昨日は、あれからずっとソワソワしていたせいで、お母さんに心配されて、早めにベッドに入った。

 だけど、ベッドの中でも、保健室で彼と交わした数少ない言葉や、彼のくしゃっと笑った笑顔が、頭の中に何度も浮かんで落ち着かなかった。


 眠れないと思っていたけれど気が付いたら寝ていたみたい。

 ゆっくり起き上がり、ベッドを降りて洗面所へ向かう。


 今日は、少し早めに学校へ行こうかな。学校行って、朝のホームルームが始まるまで、勉強しておこう。

 髪を梳きながら、そう決めて、櫛を置いた。


 部屋に戻って、制服に着替える。

 膝より少し下まである、学校の基準にぴったりはまったスカートを履いて、カッターシャツを一番上のボタンまでしっかりとめる。

 腰まである髪を、いつも通り三つ編みでおさげに編んだ。


 ◆◇◆◇


 用意をして玄関を出ると、少しだけ涼しい空気が肌に触れた。

 道行く人は、いつもより少なくて、なんだか道が寂しげに見える。
 

 朝の時間が一時間早いだけで、見慣れた道の雰囲気が、こんなにも変わるんだ。

 こんな朝も好きだなぁ、なんて思いながら、住宅街を抜けて、大きな歩道まで出ると、指定ジャージを来た学生がたくさん歩いていた。


 部活の朝練に向かう人たちだ。

 ちょうどこの時間に、朝練の人は登校してたんだ。それなら、もしかしたら、今日の朝も鈴葉ちゃんに会えるかもしれない。
 

 もし会ったら、昨日の彼のこと、話してみようかな。鈴葉ちゃんと同じように、そのままの私を受け入れてくれる人がいた、って。

 胸の中でうごめくものを感じながら、いつもより軽やかな足を進ませ、校門へと続く坂まで辿り着いた。


 鈴葉ちゃんと出会う可能性があるならこの坂道。

 女子が私の横を通り過ぎるたびに、鈴葉ちゃんじゃないかと顔を上げながら、坂を上る。


 何度もその期待を裏切られながら、校門前までたどり着き、会えなかったなぁと諦めかけた時。