ゴーン、とどこかのお寺の鐘が鳴った後、急に神社の表の方が、賑やかさを増した。


「あ、カウントダウンが始まる」


 颯見くんが、呟くように言った。

 よく耳を澄ませると、十、九、八、と声を揃えてカウントを数えるのが聞こえてくる。

 
 もしかしたら。もしかしなくても、私は、このまま、颯見くんと二人で、新年を迎えることができるのかな。

 私がこんな場所に抜け出してきてしまったせいで。颯見くんはきっと鈴葉ちゃんたちと迎えたかったはずで。

 すごく申し訳ないことのはずなのに、勝手だけど、すごく、嬉しい。


 三、二、一、と聞こえて、ゴーンとお寺の鐘の音が鳴り響いて。新しい年が、始まった。



 ここは、すごく静かなのに、神社の表から、いっそう賑やかな声が聞こえてくる。


「哀咲、」


 颯見くんが、いつもの優しい声で、私の名前を呼んだ。


「あけましておめでとう」


 降ってくる声に、胸の奥が熱くなる。

 顔を向けると、颯見くんは、やっぱりくしゃっと笑っていて、トクンと胸の奥が音を鳴らした。


「あ、あけまして、おめでとう」


「うん。今年もよろしくな」


 颯見くんは笑って、スッと立ち上がった。


「行こうか」


 颯見くんに言われて、私も慌てて立ち上がった。

 
 鈴葉ちゃんたちにもきっと心配をかけている。

 私の気持ちを知っている倖子ちゃんは、たぶん、一番心配しているかもしれない。


 戻って、颯見くんと鈴葉ちゃんが並ぶ姿を見ても、もう、私は何も思っちゃいけない、と思った。

 こうやって、新年の始まりを、颯見くんと二人で迎えてしまったんだから。本当は鈴葉ちゃんと迎えたかったはずの新年を、私と迎えてくれたんだから。


 雑草の擦れる音をたてながら、前を歩く颯見くんの背中を見ると、すごく、胸が苦しくなった。