「やっぱり……あたし、中雅鈴葉、嫌いだ」


 その言葉を聞いた瞬間、ツンと鼻の奥が痛くなって、目に熱がこみ上げてきた。

 目からあふれ出そうになるものを、必死でこらえながら、キュッと着ているワンピースの裾を握る。


 どうして、涙が出そうになっているのか、自分でもわからない。

 鈴葉ちゃんのことを嫌いって言われたことが、悲しかったのか。それだけじゃ、ないような気がする。

 すごく、複雑に渦巻く、感情。


「あーもう!」


 急に、バン、と倖子ちゃんが立ちあがった。反射的に、びくりと肩に力が入る。


「雫、中雅鈴葉なんかに負けるな!」


 さっきの消え入りそうな声が嘘だったかのような勢いで、声が部屋に響く。


「雫に振り向かせればいいだけの話!」


 そう言い終わると、トスンとソファーに身を落とした。


「あたしは、雫の味方だからね」


 ふっと笑った倖子ちゃんの言葉に、渦巻いていた何かが少しだけ軽くなった気がした。

 倖子ちゃんと仲良くなれてよかったと、いつも思うけれど。今、そう思うのは、少し都合がいいのかな。


「あ、そうだ」


 倖子ちゃんが足を組んで、ポケットからピンク色のカバーのスマートフォンを取り出した。

 そのカバーを、パカっと開いて、画面の上で目を動かしている。


「雫、大晦日の夜、空いてる? 空いてるなら一緒に初詣行かない?」


 倖子ちゃんが、画面から、ちらっと私に視線を向けた。


「い、行きたい! でも親に連絡しなきゃ」


 私が答えると、倖子ちゃんはふっと笑って、手に持っていた携帯をテーブルの上に差し出した。


「それ使っていいよ。家に電話しな」


「あ、ありがとう」


 それを手に持って、倖子ちゃんに操作を教えてもらいながら電話をかける。


「もしもし、雫です。大晦日、友達と初詣に行ってもいい?」


 電話の向こうで、お母さんが嬉しそうにふふっと笑って、もちろんいいわよ、と返事が返ってきた。


「ありがとう」


 電話を切ると、倖子ちゃんは「じゃ決まりね」と笑った。