毎日欠かさず留守電を入れた。
 会えなければ会えないほど想いは募って、しかも深夜に電話することが多いから激甘なメッセージのことも多々あった。

 次の日、起きた時に思い返して、やっちゃったなーと赤面するのに、また夜になれば甘い言葉を囁いた。
 毎日、毎日、入れることがいいのか分からないけれど、本気なんだよって少しでも伝わればと思っていた。

 紗良からの留守電はないまま……。

 


 今日は大池さんの送別会。
 そして………。

「忙しくしていてなかなかみんなとの交流は少なかったが、松田くんも今月までだ。
 新しい年の1月からはまたスリーピングの方に戻る。
 元々期間限定だったが、仕事が早かったお陰で早く帰ることになった。」

 部長が俺の功績を長々と話してくれる。
 俺はそれを沈んだ心で聞いていた。

 あれから何日も経った。
 もうすぐスリーピングの方に戻るのに、紗良とはあれ以来、話せていない。

 毎日の留守電を聞いてくれているのかも分からない。

 俺の次は大池さんの紹介に移り、また長そうな部長の元を退散して早瀬主任の近くに逃げた。
 そこでホッと息をつく。
 紗良は少し離れたところで部長の話を真剣に聞いているみたいだった。

 隣にいた早瀬主任が俺にだけ聞こえる声で質問をした。

「松田くんは身を固めるつもりはないの?
 大池くんはお見合いまでして、タイに連れて行く人を決めたらしいよ。」

 大池さん……そっか。
 それはそれできっと1つの生き方だよな。

「俺は……俺は心に決めた人はいるんですけど。」

 全然、手応えがないどころかダメかもしれない。
 一方的過ぎて心が折れてしまいそうだった。

 早瀬主任は眼鏡を押し上げてため息混じりに呟いた。

「天野さんは幸せ者だな。」

「え……いや。そうだとは俺……。」

 まさか早瀬主任にそんなこと言われるとは思わなくて、しどろもどろになってしまった。
 しどろもどろなのは、そうです。と言っているようなものだ。

「見てれば分かるよ。
 俺ももう少し若ければ立候補したんだけどね。」

「え…。何に………。」

「天野さんの隣。」

 早瀬主任が不敵に笑って、嘘か本当かも分からない。

 早瀬主任がそんな………。

「俺、早瀬主任が恋敵だったら敵わなかった気がします。」

「何を言ってんだ。リアル王子が。」

 大池さんの紹介も終わって歓談の時間になった。
 みんなで話し始めて早瀬主任との密談も終わった。

 王子様だからいいよなって言われる。
 俺も紗良の王子様になるつもりで頑張ってきた。

 でも、今は王子様はいないと言う紗良にどう頑張ったらいいのか分からなくなっていた。