紗良の手を引いて頬に触れさせた。

「冷たくて………気持ちいい。」

「まだ熱が高いんですよ。
 薬、飲んで寝た方が……。」

「紗良は……帰ったりしない?」

 子どもみたいな甘えた声が出て、だけどそんなこと気にしていられないくらい弱気だった。
 紗良に側にいて欲しかった。

「いい子で寝ていられるなら。」

 ふふっと笑う紗良が頭に手を置いて優しく撫でる。

「また子ども扱い。俺、結構大きいよ?」

「はい。大きいですね。
 寝て起きたらよくなってますよ。」

 紗良に言われて素直に目を閉じた。
 風邪で弱ったところなんて見せて……。
 幻滅されなきゃいいけど。



 何度目かの目覚めで体は楽になっていた。
 時計を確認すると7時だった。
 カーテンを少しだけ開けて外を見て、朝の7時だと理解した。

 部屋に紗良の姿はなかった。

 いい夢を見ただけか……。
 今が何曜日か……倒れたのはいつだ?
 夢では寝ていたのは土曜だったな。

 シャツが体に張り付いて汗をたくさんかいたみたいだ。
 汗を流そうと風呂場へ向かう。

 ガチャッとドアの開いた音がして、そちらに目を向ければ紗良が部屋の入り口に……。

「キャッ。ご、ごめんなさい。
 起きてると思わなくてインターフォン押さなくて………。」

 夢じゃなかった。
 紗良は俺の部屋に来てたんだ。

 両手で顔全部を隠す紗良に歩み寄って抱きしめた。

 あぁ。本当に……紗良が家にいる。

「あ、あの……。せめて服を……。」

「あ、あぁ。ごめん。
 シャワーを浴びようと思って。
 一人暮らしだと裸で平気だから。」

 脱いだのが上だけで助かった。
 本当に全裸だったら逃げ出してただろうな。

 フッと笑みをこぼして、紗良を解放した。
 まだ紗良は両手で隠したままだ。

 風邪が治ったのかを確認しに来ただけなら帰ってしまうかもしれないと寂しい気持ちになる。

 まだ病み上がりだからかな。
 心細いみたいだ。

「シャワー入ってる間に帰ったら、裸の俺に抱きついてきたってセクハラで訴えるからね?」

「抱きついたのは松田さんです!」

 せっかく夢じゃなかったんだから、離れたくないのは風邪のせい……だけじゃないかもね。