紗良との再会に運命を感じた。
 しかし紗良は違ったみたいだ。

『松田爽助』を名乗ってもピクリともしない。

 それに………。

 再会した紗良に少しイライラする。

「じゃ紗良。頼むねー。」

「はい。お疲れ様です。」

 他の社員の仕事を押しつけられ平気な顔をしている。
 彼女は人違いなのか、それとも……変わってしまったのか。

「人の仕事を押しつけられて、いい顔をしたい人なのかな。」

 苛立ちがそのまま言葉に棘を纏って彼女に投げつけていた。

 らしくないな。
 心乱されるのはあの子かもしれないと思うからかな。

 ビクリと肩を揺らした彼女が振り返る。
 あぁ。やっぱり彼女はあの子だ。紗良だ。
 そう確信する。

「まだ残ってらっしゃったんですか?
 私は大丈夫です。
 先輩方は残業したくなくて、私は……お金が必要で。
 だからお互いにウィンウィンの関係です。」

「何か欲しい物でも?」

「いいえ。
 おばあちゃ……祖母が体を悪くして。
 私、おばあちゃんっ子だったので、治療費とか生活費を送ってるんです。」

 そっか。そうだよ。
 昔からそういう子だった。

「じゃ手伝ったら、迷惑かな?」

「迷惑だなんてそんな。
 ……実は今日のはさすがに多いなって、げんなりしてたんです。」

「ハハッ。お人好しだな。
 言えば良かったじゃないか。」

 紗良は俯いて居心地が悪そうに呟いた。

「それに私、人一倍時間がかかるから。
 仕事を覚えるのも遅くて。」

 紗良の隣の席に座って、書類の山に手を伸ばす。

「丁寧なのはいいことだよ。
 コピーなんかを教えてもらった時も丁寧でしっかりした人だなって。」

「いえ。そんな。松田さんこそ。
 コピーはみんな女の子に頼む人が多いのに。」

「男女平等だよ。
 さぁ。この山を片付けないと。」

「はい。」

 にっこり微笑んだ紗良に改めて俺は落ちたんだと思う。