「悪いことをした者を庇うのは良くないことくらい爽助くんは分かっていると思っていたよ。」

 麗華の父親であるシープの清水専務。
 貫禄があるというのはこういう人を言うんだよと紗良に教えてあげたい。

 恰幅のいい体に立派な口ひげをたくわえたにこやかな笑顔。
 しかしその瞳は眼光鋭くこちらを見定めている。

 直々に呼び出しがあるほど悪いことなのか、いや悪いよな。

「はい。騒動を大きくしてしまったこと、誠に申し訳ございませんでした。」

「そんなに萎縮しないでくれ。
 麗華の婚約者に変な噂でも立つと困るからね。」

「はい。すみません。」

 あとはほとんど世間話をして終わった。

 父と久しぶりに会った話やゴルフの誘い。
 楽しそうな清水専務に合わせて楽しげに話す裏で気持ちは落ちていた。

 俺の精一杯の嘘は無駄だったのかな。


 席に戻ると紗良がいて、少し不機嫌そうで特に何も言われなかった。
 別にお礼を言われたくて紗良を医務室に連れて行ったわけでも、正義に背いてまで香川先輩を庇ったわけじゃない。

 それでも………。

 俺は誰にも見られないように、そしてごく自然にメモをして、書類に混ぜて紗良に渡した。

「これ。違う書類ですよ。」

 こちらも見ずに突き返された書類。

 俺の書いたメモ。
 『俺の友達に会ってくれるんだよね?』

 その下に小さく可愛らしい二文字。
 『はい』

 喜びそうになる口元を押さえて隣の紗良を盗み見た。
 何を考えているのか分からない表情の紗良。

 今日、迎えに行こう。
 風邪はもう平気なのかな。
 少しなら平気かな。
 先延ばしになんてしたくないんだ。

 紗良よりも先に帰って迎えに行けるようにいつも以上に仕事に集中した。

 昼休みに亘へ『今日、いつものカフェに来れるか?』とメールを送ると『珍しいな。爽助から誘うの』とメールが来た。

 続けて『また何かあったのか?』と送られてきて『後でのお楽しみだ』と送った。

 紗良は亘をどう思うかな。
 亘も……会えばいい子だって言うに決まってる。

 そんな浮かれた考えしか浮かばなかった。

 紗良は俺のお姫様で、俺は紗良の……。
 紗良だけの王子様に見てもらえるように頑張ろう。

 そう心に決めた。