白い天井を見て、うちとは違うなぁとぼんやり思った。

 カーテンの向こう側が騒がしくて目が覚めた。
 寝ていたみたいだ。

「だから、爽助は今まで誰にも特別なことしなかったから良かったのよ。」

 女の人の声で爽助という名前が呼ばれてドキリとした。
 松田……爽助さん。

「分かってる。今回の紗良の件で………。」

「ほら。紗良なんて名前で呼んで。」

「麗華こそ。」

 麗華……さん?

 清水麗華さん??
 みんなが麗華様と呼ぶくらいに綺麗で美しくて………強くてしなやかな美しさ?

 名前で呼び合うほど仲がいいんだと思うとチクリと胸が痛んだ。
 麗華様が松田さんの想い人………。

「私はフィアンセだからいいの。
 みんな周知の事実よ。」

 フィアンセ……婚約者?
 嘘………好きな人がって。
 それとも婚約者に片思い?

 あぁ。どちらにしても私とは世界が違う人。
 麗華さんは我が社シープの専務か誰かのお嬢さん。

 コネ入社だなんて言わせないくらいに仕事が出来る。
 モデルのような体型で華やかで松田さんと並ぶときっとお似合い………。

 なーんだ。
 婚約者なら練習も何も……。


 話が済んだみたいで誰かが医務室を出て行った。
 そして誰かがこちらに来る気配がして、目をつぶった。

 寝たふりなんて得意じゃないから、早く!行って!お願い!!

 手が大きな手で包まれて「紗良、ごめんな」とだけ口にしたのは松田さんで、声と手の大きさで分かった。
 触れたぬくもりは温かくて、そして離れた寂しさは胸を締め付けた。

 私は……。

 何か言えるわけもなくて、目を閉じたまま松田さんが去っていくのを待った。



 松田さんが居なくなると天井をぼんやり見つめた。
 熱でぼんやりする頭は改めて夢の世界へと入っていった。

 あぁ。夢だったんだ。
 おばあちゃん本当だったよ。
 清く正しく生きていればお天道様が見ててくれるって。

 だから私に叶わない夢を見せてくれたんだね。
 ずっとずっと憧れていた夢を………。
 叶わないから夢なんだね。