「松田さんは王子様みたいですよね。」

 不意に紗良から言われた『王子様』にドキッとする。

「そんなことないよ。」

 紗良が何を思ってそう言ったのか分からなくて当たり障りのない返答をする。

 それにやっぱり少し酔っているみたいだ。
  ペットボトルの蓋を開けられないくらいだしね。

「みんな王子様みたいだって騒いでます。」

 みんな……か。

 期待した答えとは違うくて、僅かに期待した心と一緒に缶を近くのゴミ箱に捨てた。
 もう飲まないと言う紗良のペットボトルも一緒に捨てる。

「みんなじゃ意味ないよ。」

 つい本音がこぼれた。
 俺が頑張ってこれたのは紗良に会うためで、紗良の王子様に………。

「もしかして片思いですか?
 松田さんが……そんなわけないか。」

 へへっと紗良は悪戯っぽく笑う。
 2人きりのせいかあの頃の紗良みたいだ。

 それにしても本人に言われるなんて皮肉だな。

「ハハッ。ご名答。」

 酔っていたんだと思う。
 それともあの頃の紗良に会えたと思ったからなのか。
 いつもなら適当に誤魔化すのに。

「松田さんが?嘘!片思いなんですか?」

「シー。内緒だよ。
 本人は全く俺のことなんて見ていないんだ。」

 わざと茶化して口元に指を当てたポーズまでして、何してるんだろう。

 紗良は俺のこと忘れてるんだろうな。
 俺は片時も忘れたことないのに。

 憎らしくて、でも愛おしい紗良を真っ直ぐ見ていたくないのに目が離せない。

「告白したら絶対にOKですって!
 松田さんかっこいいもん。」

 明るい、顔いっぱいの笑顔を向けられて心が踊った。
 本人にかっこいいとか絶対にOKとか言われるならいけるかな。

 あの頃みたいな紗良に酔った勢いを借りて。

「この歳で恥ずかしいけど……口説いたりできるかどうか……。」

「それなら……。」

「それなら?」

「練習しますか?」

「練習??」

 聞き直したら真っ赤な顔をしてもじもじして、その紗良がすごく可愛いかった。
 あぁ。可愛いあの時の紗良だ。

「冗談です。なんでもないです。」

「何が?気になるじゃないか。」

「………私が練習台になりましょうか?」

 俯き加減の顔を真っ赤にしている紗良。
 抱きしめてしまいたかった。

 じゃなきゃ「ありがとう」なんて言わなかったと思う。