「何…足りないの?」


「うん…離れたくない…」


「……」


やっぱり、新しい母親ができるかもしれないって、こいつの中で相当きてるのかもしれない。


その時の俺は、そんなことしか考えられなくて、ただ静かに抱きしめ返すことしかできなかった。


双葉がこんな風に自分から甘えて、求めてくるのなんて、なかったかもしれない。


「離れねーよ、俺も、お前の親父も」


「うん。わかってる。ごめんね」


「なんで謝んの」


フワッと風が吹いて、彼女の髪の毛からするシャンプーの香りが鼻をかすめる。


「うん。そうだよね。間違えた。優、ありがとう」


「ん、」


きっと俺の方が礼を言わなきゃいけないのに。


これ以上想いを口に出したらそのまま溢れ出しそうでグッとこらえた。


「ほら、食べるぞ」


そう体を離した時、彼女が慌てて涙を拭いたのを、俺はこの時気づけなかったんだ。