今日もパパは帰ってこない。


最近は弁当もいらないと断られてばかり。


メッセージだって既読して終わることも増えた。


ご飯が炊き上がるまで、ダイニングテーブルに座って、音楽アプリを開く。


『saku』


大好きな名前だった。
まさか隣のあいつだなんて。


でも…。


一番最近のカバー曲のタイトルをタップすると、すぐに彼の声がダイニングに響く。


「…好きだなぁ」


声を聴いてしまうと、思わずそんな声を漏らしてしまう。


わかっているけど、それでも、彼の声には何自分の全部持っていかれそうになるくらいの力がある。


彼の声に惚れてしまった、それはどんな言い訳もできない事実だ。