「あのさ、敬語使わなくていいよ。敬語使われると…変に緊張するし」


「はい、わかりました……じゃなくて、うん。わかった」



表情が固い千夏に気付いた翼は優しく話す。




「あと呼び捨てでいいから。気構えなくていいよ、俺なんかに」

「わかった。翼は優しいんだね」

「そうかな?…ヘタレなだけだよ」



翼が苦笑いすると千夏もつられて笑う。



千夏は警戒心や緊張が、いつの間にか解けた気がした。




「じゃあ翼も稲葉さんって呼んじゃダメだよ」


「…え?でも俺、女の子を呼び捨てにするの苦手なんだよね」


「じゃあ翼が呼びやすい呼び方でいいよ。でも稲葉さんだけはダメ!」



千夏の言葉に翼は唸りながら考え込んだ。



そんなに難しいことなのかな?と想いつつも、本気で悩んでいる翼の整った横顔を見て、少し胸をときめかせる千夏。




暫くしてゆっくりと千夏に顔を向けた翼は、恥ずかしそうに呟いた。



「ちー…」





千夏はこんな事で人は簡単に恋に落ちてしまうのだと

この時、初めて知った。