千夏が部屋のベッドに伏せていると、真弓が部屋に入ってきた。



真弓はベッドに腰を下ろすと、優しく千夏の髪を撫でた。




「…私ね、翼がちーって呼んでくれたら…迎えに来るのが遅くなった事を許してあげるつもりだったの。…なのになんで?なんで…忘れたの?」


「…ねぇ千夏。私ね、思ったんだけど…」


「何?」



真弓は千夏の髪を撫でながら、優しく言葉を続けた。




「持田さんの記憶が戻るかはわからない。だけど、千夏と持田さんは出会ってすぐに惹かれ合ったでしょ?…だからまた1から始めてもいいんじゃないかな?」


「1から?」


「うん。だって記憶は無くても持田さんは持田さんでしょ?だからまた、千夏に惹かれるはずだよ」



真弓に優しく抱き締められた千夏は、声をあげて泣いた。






ありがとう、真弓。


私は十分泣いた。

泣くだけ泣いたから、もう泣かない。




もう一度

翼に“ちー”と呼んでもらう為に



もう一度

翼が私に恋をしてくれるように





もう一度、頑張ってみようかな。