「じゃあこれからは、隼人が来たら稲葉さんは俺んちに来ればいいよ」

「え?えぇぇっ!?」

「…嫌ならいいけど」



少しふてくされたように呟く翼を見て、千夏は彼を可愛いと思った。




「じゃあその時はお世話になりますね」



千夏が笑みを向けると、翼も優しい笑みを浮かべた。




特に会話は交わさなかったが、2人はそれでも心地よかった。




暫くして翼のアパートに着いた2人は部屋に入ると、リビングに置いてあるソファに並んで腰を掛けた。



「男の人の部屋にしては綺麗に整頓されてますね」



千夏は翼の部屋をキョロキョロと見渡す。




「稲葉さん、何か飲む?何かって言ってもコーヒーしかないけど」


「私、コーヒー苦手なんで飲めないんです。だから大丈夫ですよ」


「そっか、ごめんな。じゃあ何の飲み物が好き?」


「そうだなぁ…ココアが好きかな。冬の寒い中で飲む、あったかいココアが好きですね」



今は夏なのに冬の話をする千夏。


翼はそんな千夏を見て笑った。



「じゃあ今度稲葉さんが来るまでに、ココア買っておくよ」

「はい、ありがとうございます」



会話が途切れた2人の間に静かな時間が流れる。




よく考えてみれば、今日知り合ったばかりの男性の部屋にいる。


何をされても文句は言えない。



今となって事の重大さに気付いた千夏が焦ると、翼が口を開いた。