店の外ではうずくまった千夏が苦しそうな息をあげている。





…気持ち悪い。


他の女としてあの男に抱かれたと思うと気持ちが悪い。



顔を見ただけで思い出してしまう。


触られた感触に
愛のない言葉

欲を満たすだけの息遣い。



全てが気持ち悪い…






「ちー大丈夫?」



今にも吐いてしまいそうな程、青ざめている千夏の背中を翼は優しくさすった。




「…うん。大丈夫…」

「さっきの元カレだったんだってね。…ごめんね、ここの店を選ばなかったら会わなくて済んだのに」



申し訳なさそうな顔をする翼に千夏は寄り添った。



翼の体温を感じていると、込み上げてきた悪夢が治まる気がして安心した。




「…北海道は星が綺麗だね。空気が澄んでるからかな」



暫く無言のまま寄り添っていると、白い息が昇る空を眺めていた翼が呟く。




「よく見える場所から星を見てると、星って本当に金平糖みたいな形でキラキラしてるみたいだね。…1つちーに採ってあげたい」



夜空に向かって手を伸ばし、掴むマネをする翼を見て千夏は笑う。



黒い空から降り注ぐ白い雪を眺めていると、千夏を呼ぶ声が聞こえた。




「千夏!」

「…!!俊介…」


2人の前に現れたのは千夏の元カレ。


元カレを見た千夏は翼の後ろに隠れる。




「…あの時はごめんな、千夏。俺さ、確かに浮気はしてたけど千夏の事だって…」

「それ以上は言わないで下さい」



元カレの言葉を翼は遮った。




「今そんな事言ったってちーの傷は癒えない。あんたはただ、自分が許されたいだけなんだろ」

「俺はそんなつもりじゃ…」

「ちーの彼氏は俺だ。…あんたはただの元カレ。もう、ちーの前に現れるな」



翼が睨むと、元カレはそのまま店の中に戻っていった。




「…翼、ありがとう」

「ううん。俺が嫌だっただけだから」



翼のおかげで少し過去から解放された気がした千夏。