「千夏は持田さんの事ちゃんと好きだよ?拒んで傷付いてるのは千夏も同じだよ」


「ありがとう、橋本さん。…俺、帰るね」



翼は真弓に頭を下げると自分のアパートに向かって走り出した。


そんな翼の背中を見送る真弓と隼人。





そういえば付き合う前、ちーは


『厄介な事になるなら、傷付くくらいなら彼氏の過去や隠し事は知らない方がいいと思ってた』


と言っていた。




そのワケはここに繋がっていたんだな。






家に着いた翼が勢いよく部屋に入ると、金魚のつーちゃんを儚げに眺めている千夏がいた。



「ちー…」



翼は千夏を後ろから抱き締めた。


抱き締めた腕にあたたかい千夏の涙が零れ落ちる。




「…ちー、こっち向いて」



翼は千夏の肩を掴み、自分に向かせると優しく頬を包んだ。



「今ちーの目の前にいるのは誰?」

「…つ…ばさ」

「そう、俺だ。他の誰でもない、俺だよ」



翼は優しく微笑むと、千夏の唇にソッとキスをした。


涙で濡れた千夏の唇はしょっぱかった。




「ちー…もう誰にもちーを傷つけさせない。俺がそんな事させない。…だから大丈夫だよ」



翼がギュッと千夏を抱き締めると千夏も震える手を翼の背中に回し、しがみついた。



翼の優しさが千夏を包み込む。