その頃、秋の少し肌寒い風が吹き抜ける街中を歩いていた翼。




何故千夏は受け入れてくれないのか。

何故あそこまで怯えながら拒むのか。




その理由がわからない翼は苛立ちと寂しさを感じていた。



「あれ?持田さん?」



声を掛けられた翼が顔をあげると、目の前に真弓と隼人が立っていた。




「おー翼じゃん。お前、千夏ちゃんと一緒じゃないのか?」


「うん。ちょっとね…」


「…また拒まれたのか?」



隼人の言葉に翼は頷く。




「ちーは本当は、俺の事なんて好きじゃないのかもね」


「それは違うよ。あのね、持田さん。千夏が拒むのには理由があるんです」


「理由?」



翼を見て頷くと真弓は千夏の過去を話し始めた。




「千夏には高校の時、凄く尽くしていた彼氏がいたんです。
でもその彼氏は浮気をしたの。千夏がそれを責め立てると、いきなりそいつ、千夏の事を避妊もしないで抱いたんです。…しかも、浮気相手の名前を呟きながら…」



真弓の言葉に顔をしかめる翼と隼人。




「避妊もしなかったそいつのせいで、千夏は妊娠してしまった。…でもその男は責任を放棄したんです。自分のせいじゃないってね。
だから千夏はヤる事を拒むの。その出来事を思い出してしまうから…」


「千夏ちゃんにそんな事しやがって。マジその男ぶっ殺してぇ…」


「隼人がキレても仕方ないでしょ」



真弓は隼人を肘で小突くと、翼を見た。


翼は何ともいえない表情で唇を噛みしめている。