「何が俺をそうしたのかはわからないけど多分、同じような毎日に飽きていたんだと思う。

あの頃は女なら誰でもよくて、寄ってくる子はみんな抱いてた」



翼の話を聞いている千夏は、視界が段々と滲んでいく事に気が付いた。




「でもね、そんな俺を変えてくれる人が現れたんだ。教育実習生として来たその先生だけが、荒れていた俺と唯一向き合ってくれた。

俺がどんなに冷たい態度取っても、酷い事を言っても決して見放さなかった。

気付いたら俺はその人に恋をしていたんだよ」



「…もしかしてその先生…英語教師だった?」


「うん。英語の担当教師だった。だから俺は少しでも喜んで欲しくて英語ばかり勉強した。恩返しのつもりでね」



打ち寄せる波の音が

他の女の人の話をする翼の横顔が


…切なかった。





「…でもその人、俺が更生されてきた頃に結婚したんだよ。それを知った俺は、彼女でも何でもないのに勝手に裏切られた気になって、色んな奴を片っ端から殴り散らした。

昼間会った奴もその中の1人なのかもしれない。

でもね、怒りが冷めた頃気付いたんだ。俺が彼女を好きだったのは変えられない事実だし、彼女が俺を変えてくれたのも事実だ。

だから彼女の為にも俺はまっとうに生きていこうと思ったんだよ」



翼が千夏を見ると千夏は静かに涙を流していた。




過去を知れて嬉しい。


でも、彼が心から愛した人の話は辛かった。