さまよう爪

まもなくしてカーテンの間から、さっきの男性が音もなく現れて。

彼はわたしが目覚めているのに気づくと、息を吐き、口元だけで小さく笑う。

「あ、起きた?」

まだ息苦しくて声が出せなかったわたしは、男性に頷いてみせた。

「……まだ、顔色悪いね」

ちらりと笑ってはくれたものの、男性の眉のあたりはまだ、心配そうな様子を残している気がする。

申し訳ない……

わたしが自分の罪悪感と戦っているとき、男性の後ろから、駅員さんがひょいと顔をのぞかせた。

話し声が聞こえたのでわたしが起きたことに気づいたのだろう。

お礼も言えないでまごついているわたしに、駅員さんは優しい言葉をかけてくれ、それから「水を持ってきますね」と言い残し、風のように去って行く。