さまよう爪

男性に抱えられているとき、わたしは自分の気分の悪さや頭痛に根負けしてしまって、ほとんど意識を手放している状態だった。

だから、駅員さんがわたしを休ませてくれる為に駅事務室まで案内してくれたことも、男性がわたしをそこまで抱えて運んでくれたことも、情けないことに、まったく覚えていなかった。

意識がはっきりしたときにはすでに、わたしは駅事務室の簡易ベッドに寝かせてもらっていた。

事務室と言っても、わたしがいる場所は駅員さんの仕事場のさらに奥にあり、救護室のような雰囲気だった。

二つあるベッドはそれぞれカーテンで区切られ、外からは見えにくくなっている。

しかし、目覚めたばかりのわたしは、自分が今どこにいるのわからずに、ただぼんやりと天井を眺めていた。