さまよう爪

熱のせいで体が震える。

男性は脱いでいた上着をわたしの肩に掛けてくれた。

お礼を言おうと思って顔を上げると、彼は「いいから」と首を振り、ハンカチでわたしの額の汗を拭いてくれた。

男の人っぽい匂いと、微かにムスク系のコロンの香りがした。

少しもあわてることなく、冷静に対処してくれている。それでも時折、心配そうな表情が見え隠れしているのが分かって、見ず知らずの自分に、と感謝の気持ちと申し訳ない気持ちとで、胸がいっぱいになってしまった。

しばらく待ってみても、一向に体調が戻る気配はない。当然だ熱があるのだから。それどころか何故かだんだん目の前の景色がゆっくりと回っていることに気づくとどんどん早く回っていくのに座っているのも辛くなってきて、体がだんだん前かがみになってくる始末だった。

目を瞑っても回っている感覚がなくならずすごく怖い。

指先が硬直してくる。

怖い。

すると、男性は両手でわたしの手のひらを包むようにしてとる。