さまよう爪

ソーダが先か? ソフトクリームが先か?

クリームソーダは長靴型のガラス容器で運ばれてくる。

いざ――長い柄の細いスプーンで渦巻くソフトクリームをひと撫でする瞬間が好きだ。

祝日の月曜日。(明日、お会いできませんか?
 お話ししたいことがあるんです。) 待ち合わせはチェーンの喫茶店。

「ソーダ水の中を貨物船がとおるー」

向かいの瀬古さんが歌い出す。

急にどうしたのだろう。

わたしがちょっとびっくりして顔をあげても、瀬古さんの視線は、べったりとした緑色の中にあった。

小さなアワも恋のように消えていった。と続きの歌詞を呟いたあと、

「松任谷由実の曲の歌詞でそういうのがあったなあって」

海を見ていた午後だっけかな…と言った。

「そうなんですか」

「ソーダ水って、炭酸水のことかな」

「たぶん」

瀬古さんはまだ視線を落としたままだ。

わたしもちょっと真似をして、緑色の向こうを透かして見ようとする。

まるで塞ぐように、向こう側は見えない。

「なんにも見えないなあ」

瀬古さんは頬杖をつきながら、呟く。自分の手元に置かれたふんだんなホイップクリームで蓋をされ、淡い湯気を立てるココアよりも、ずっと面白そうに泡を飛ばすメロンソーダを見ている。

視線。少し、飲みにくい。まあ飲むけど。ストローで一口吸う。

このクリームソーダ。ブーツのかかと部分に氷がたくさん詰められ、氷の上にクリームが載っているので、ソーダと混ざらずにいただけるところがわたしは嬉しい。

クリームはクリーム。ソーダはソーダ。で味わい、3回の味の変化を楽しむ。それがわたし流。

スプーンで氷の上に乗っかるソフトクリームを緑色の海に落とす。途端にメロンソーダが色を変えて白波を立てるようになっていく。