さまよう爪

それでもわたしはマニキュアが乾いたとわかると、

「……あの明日は何時までお店開けてますか?」

そう訊ねていた。

この赤はもう、わたしの心を捕らえて離さない。





家に着く。誰もいない自宅の空気はいつでも冷やかだ。

カーテンを閉めていないにこと気がつく。閉める。

窓から見た外は真っ暗だった。何も見えない。

加湿器のスイッチを点ける。

空腹のピークを過ぎたのか、食欲がわかない。でも喉は渇いた。

適当にハーブティーを淹れて台所で突っ立ったまま、ハーブティーで口を潤して、夕食代わりの買い置きしといたソイジョイのアプリコット味を頬張る。

料理なんてしたらせっかく綺麗に塗ってある両手の爪が、傷つくことになるから。

大事な大事な、わたしの爪。あの人がかつて塗ってくれた、わたしの爪。

細長の固形を齧っては良く噛んで飲込む。

残りかすをハーブティーで流し込んだ。

今夜は奮発してお風呂にバスソルトを入れようか。

以前友達に貰った瓶に入った桜色のバスソルトがとてもいい匂いで、それを使い切ったあとにネットを使って同じものを自分で取り寄せたのだ。

女子会を企画した友達に1瓶あげようかな。

きっと彼女なら気に入ってくれるはず。

それから服を全て脱いで下着姿になる。

買ったばかりの真新しい匂いのするドレスを着てみた。やはりオフホワイトを選んで正解だった。

手持ちのバッグを引っ張り出してきて持ってみる。

この組み合わせは少しわたしらしくないように思えた。

けど、新しい髪の色とは合っているかも。

何だか鏡の中の自分が自分ではないみたいだ。

いや、わたしなのだけど。

ドレスを脱いで皺がつかないように注意してハンガーにかける。

隣には明日の結婚式に着ていく青紫のドレス。

上品で高級感のあるカラーでありながら、他のゲストと被ることも少ないから安心。