さまよう爪

「今日は、どのようにします?」

わたしの指先を、除光液で擦り落としながら浅川さんが聞く。

「小野田様はいつも大人しめのデザインを好まれて、それは雰囲気にも合ってるんですけど」

それはわたしがついつい10歳のあの日、男に塗ってもらった色に近い色ばかり選んでしまうせいだろう。

「今回こんな新色が入ってきてるんですけど、小野田様に似合うんじゃないかと思って。どうですか?」

浅川さんがそう言って、棚から小瓶を取り出す。

ガラスの中のその色は、赤。少し暗い、熟しすぎたラズベリーのような赤だった。

綺麗。

思わず吐息が零れた。

この色を、爪に彩ったら、さぞかし華やかになるだろう。けばけばしすぎない、上品な赤で、目を奪われたまま視線を外せないほどだった。
しかし。いけない。綺麗だけれど。

「明日は結婚式に出席するのでまた別の機会にします」

花嫁より目立ってはいけない。

それでわたしは、ヌーディベースの。シンプルなストライプネイルにした。

シンプルな中にもセンスが光る、細いストライプの繊細なネイルデザイン。

これはこれでいい。とっても。やはり自分でやるセルフネイルと全然出来栄えが違う。 甘皮の処理まで完ぺき。