さまよう爪

宝くじ売り場を見る。

いつか宝くじでも当って余裕を持てたら沢山買い物をしよう。

宝くじ。1枚300円のものを、買うことはあるがそれは誰にも言っていない。

高い金額を当てるより、購入資金を貯金したほうが効率がいいことは知っているし、人との会話の流れで宝くじを買う人を馬鹿にしたことがあるからだ。

それにもし高額を当てでもしたら他人には隠し通さないといけない。

だから宝くじを買っていることは周囲には内緒だ。

ビル全体がエステサロンのオージオ。

愛流がこの前ここでブライダルエステをしたと言ってたっけ。

今日の最終目的地。

行きつけのネイルサロンの白くて重たいドアをそっと押し開けると、チリンとカウベルが鳴って、奥から浅川さんが笑顔で現れた。

わたしの爪をいつも手入れしてくれる、腕利きのネイリストだ。

女手ひとつで、この小さなネイルサロンを経営している。前は大手のエステティシャンだったが、3年前に独立して、ここに店を構えたそうだ。

「小野田様、お待ちしてました」

浅川さんは、今日は藍色の膝丈ワンピースに、柄のある黒いタイツを合わせて、髪はひっつめにしている。

いつもシンプルな服装をしていて、メイクも控えめだが、女性性を出しすぎず、かといって男性的でもなく、見ていていつも気持ちのいい人。

ヘアスタイルお変えになったんですね。前もとってもお似合いでしたけど今の髪型いいですね。

そう言ってもらえて嬉しいです。浮かれてつい買いすぎちゃって。

見せびらかしていたわけではないけれど、ブランドのことで会話を交わす。

「小野田様はご自分でも綺麗にお塗りになりますね」

客用の椅子に座って、手を出した途端、浅川さんに言われ、本当はもっと頻繁に通いたいんですよ。と返す。

ありがとうございます。微笑む浅川さん。