さまよう爪

どうでしょうという店員の声に扉を開ける。

よろしければどうぞとミュールを差し出される。

礼を言って履いて試着室の外に出る。遠目から鏡で自分の姿を見る。

うん、良いんじゃない?

後ろ姿も。サイズがぴったりと合っているのも嬉しい。

店員さんがお似合いですよと言ってくれて、ビジネストークなのだと理解はしているけれど、少し嬉しくなる。

だって、髪とドレスが凄く似合っているのだもの。

それから。

でもこれを買ってどこに着ていくのだろう? と考えた。

店員がこのままでもいいし、ジャケットやカーディガンと組み合わせてカジュアルに使うことも出来るし、別々でも色々な使い道があると説明している。売り方が上手い。さすがプロ。まあ確かにそう思う。

2つ揃って素敵なのはもちろんいいことだけれど、バラバラに別れてもそれぞれに利用出来て、それを楽しめるのはいいことだ。

でもどうせならドレスを着るような気持ちになった時や場所に着ていきたい。

今後の予定を考える。そんな時は今のわたしにはないなぁと考えて、すぐに友達から誘われたイベントがあったことを思い出した。

ボジョレーの解禁日。

夕暮れの手前から丸の内のレストランで今年のボジョレーを楽しむ為のパーティーがあるという。

女の子達だけで行くというからそこにこの服を着ていこうか。

こういう時に女子会って便利。

複数のボジョレーの他においしい料理もコースで出てくるというから楽しみだ。やばいお腹が鳴りそう。

あとで友達に連絡しておこう。

うん、これが今日の最後の買い物にしよう。

しばらくは質素な生活をする。ようはバランスが大事。