さまよう爪

扉を閉めて、取り残された。抱えるほどのフランスパンと、自分の中身と上っ面のギャップに改めて気づかされたわたし。

「どうしよ……こんなに」

彼氏と2人で?

耳に残った大家さんの言葉に、「いなくなりました」なんて独りになってから言い返しても遅い。

一度受け取ったものを返すのも失礼だろう。

かと言って、

「食べきれるかな……」

意外にも今日はじめての溜息を玄関で吐いた。

増えたのは大家さんのくれたフランスパンとわたしの後悔。

減ったのはいつもわたしに笑顔を見せていた彼。