さまよう爪

危ないと思って顔を伏せて3階へのエスカレーターに乗る。

3階、4階。

4階で扱っている婦人服は3階と比べると価格が上がる。

客の年齢も上だと思う。

イッケイミヤケにワイズ、ボスやストラネスにチヴィディーニがある。

5階に上がろうとエスカレーターホールを折り返したところで、素敵なワンピースを着ているマネキンを見つけてしまう。

見るだけと思ってマネキンに近づく。

黒1色のワンピースの腰から下には、美しい2層のレースが編んであるのが見えた。

近寄ってよく見るとワンピースではなくて、ブラウスとスカートの組み合わせだとわかった。

いいなぁと思って見ていると、上品な笑顔を浮かべた店員が柔らかい物腰で下はスカートではなくてキャミソールドレスだと教えてくれた。

ブラウスの後ろ、肩甲骨の部分がシースルーのレ−スになっていてキャミソールの肩紐が見えた。

なるほど。と納得。

店員がそれぞれを別々にも使えるのでいいと言っている。

わたしもそう思う。そうですよね。と返事を返す。

店員が白色もあると同じ型で色違いのものを持ってくる。

純白ではなくオフホワイトで清々しくも優しい感じ。

迷っている自分を何だかおかしく感じる。

今までだったら黒を選んでいたと思う。でも今は白に心惹かれている。

新しい髪型だから?

試着をすることにした。

選んだのはオフホワイトだ。

試着室に入って服を脱ぐ。

鏡に映る自分の身体。

意味も無く左右に半円を描くように回る。

お腹の辺りを手のひらで撫でてみたりする。

試着室に入るとついこんなことをしてしまう。

痩せたかも。今日食べてないからだろうけど。

それに何だか肌がガサガサして乾いているように感じる。

やっぱり食べないのがいけないのかな。

傍らに置いてある細長い箱からフェイスカバーを取り出して冠る。

その格好で鏡を見る。映画に出てくる強盗を思い出すようで面白い。

下着姿なので随分と間抜けな強盗だけれど。

長いキャミソールを着てそれからブラウスを着る。

カバーを顔から取る。あ、なかなか悪くない。

その場でくるりとゆっくり回る。