手を握りながら、人の爪を指でこすってくる瀬古さん。マニキュアで覆われた爪の感触が面白い。とのこと。

「本当にいっつも綺麗な爪だよね」

どうしたらこんなに上手くできるのか不思議って。

わたしだって利き手と反対の手で塗るのはやはり難しい。ガタガタになったりアラが目立ったりしてしまう。利き手と反対の手で塗るときはいろいろとコツがいるのだ。

「俺はこんなふうにできなかったな」

え? としか返すことができずにいると、瀬古さんがふっと鼻で笑ってくる。

「俺が塗ってたんじゃなくて、俺が塗ってあげたの。人の爪をね。そしたらはみ出すわ、皮膚についちゃうわ、ボコボコになるわで大変だったの」

「……そうだったんですか」

あたたかく包み込まれていた右手が握り締められたのは、突然だった。

一瞬だけぎゅっと、痛いくらいに。

何? と思ったのもつかの間、

「爪だけじゃなくて小野田さんはやっぱり綺麗だなぁ」

まっすぐ見据えてくる瀬古さんの顔には、ふざけがない。しみじみした声の色。

大丈夫?

心の中で小さく苦笑。

「今日の瀬古さん何か、変です」

変。とにかく変。

「うん。変だね。あのね小野田さんといるとよく昔のことを思い出すんだ」

それが原因ですかねぇ。

のらりくらり言ったあと、

「もうちょっと握ってていい? 手」

頷く。

触れられて悪い気なんてしない。むしろそのぬくもりが心地よかった。




「じゃあ、どうもありがとうございました」

駅で礼儀正しく、瀬古さんは頭を下げる。

「こっちこそ、ありがとうございます。……また遊びましょうね」

「このままだと俺がストーカーみたいになっちゃうんで。次は、絶対、小野田さんのほうから連絡が欲しいって思ってる」

突然、真剣な目になって。

「わかる? 俺の気持ち」

「なんとなく……」

「その……少しは俺のこと、気に入ってくれたって、俺も、電話もらえれば、信じられると思うし……俺も小野田さんのこと信じたいから」

連絡来なかったら、もー、凹みまくるよ。 

かと思えばおどけてみせる。