漫画喫茶を出る。

「あーあ。小野田さんに彼氏、できないといいなあー」

出た途端、これ。さっきまでの態度はなんだったのか。

いつもながらの冗談に、大げさに溜息をついてやる。

「……ずっと、思わせぶりなこと言ってばっかり。決定的なことは絶対言わないんですね」

その気もないくせに。

「えーだって、そんなずうずうしいこと言えるわけないでしょ」

十分ずうずうしい。

大きく息を吸い込んで、静かにゆっくり吐きながら、両手を頭上にあげて背伸びする。骨が鳴る音が聞こえた。

空を見ると、西の空に薄っすらと白い半円のかたちをしたもの、月だ。月の左のほう、南の空を見ると太陽がある。

遠かった月はさらに遠く。朝になっても見ている。

ふとその月に腕を伸ばそうとして、スッと左隣が動き、現れたのは大きく関節はしっかりしているものの、スマートで爪の先も整った長い指をしている手。

男の人も、ごつごつと骨っぽい手だったり人それぞれだいぶ違う。

その手がわたしの手に重なったまま動こうとしない。

「月は掴んじゃいけないよ」

「何でですか?」

目線をそのままで尋ねる。

「遠くに連れてかれるから」