やっと口を開いたと思えば、出た言葉は。やばい間違えた。

間違えた?

「その、完全、間違えた」

最後のほうは消えてしまいそうな声だった。

「……マコさんと?」

「ん。いや、今になって何で」

つうか、ないわ。大きく息を吐いて、瀬古さんはシートにドカッと後頭部を叩きつけた。

「ごめん。マジごめん」

今になってって。今でも未練たらたらのくせに。

「今でも愛してるくせに」

「や、愛してるけど彼女は」

瀬古さんがごにょごにょ言う。

愛してるけど彼女は。

そのあとに何も付け加えることをせず、

ああー! と声をあげ勢いよく起き上がったと思えば、頭をかかえて情けない顔で苦悩していてすら顔のいい男はサマになることをわたしは知った。

「ごめん。小野田さんほんと、ごめんなさい」 

彼が必死で手を合わせてくると、何だかこっちが悪いことをした気分になってくる。

「……あ、いえ、あの、いえ、気にしてないから、大丈夫です」

「ホント? 怒ってない?」

「ハイ」

驚きはしたけれど。

今はこう言うのが精一杯だし、なおかつ最善の答えだと思ったからだ。