「でも、こんなに良い抱き枕は、持って帰りたいな」

「どういう意味?」 

「全体的に肉付きは良くて、抱き心地良いし、あたたかいし、柔らかい」

「抱き枕として最高ってこと。それ、歴代の彼氏みんなに言われてる」

抱き寄せられ、胸元にすりすりと顔をすり寄らせて、瀬古さんは甘えてきた。

猫のようなその行為が、彼にとって甘える行為であることが何となく解ったから、もう嫌がらないことにする。 何かかわいい。

髪をまた撫でて。

甘えたで寂しがりや。いい大人が。どこか人を遠ざけるような一角を持った彼が、こんなに人間身溢れた一面を持っていて。そしてそれを知れたことがちょっと得した気分になる。



子供のように、眠る瀬古さんを見ながら、わたしは結局ほぼ眠れずに朝を迎えた。

トイレに行こうと寝ている彼を起こさないようにそっと体を起こして腕を抜いた。

つもりだったが、瀬古さんはやっぱり目を覚まして、わたしの腕を引いた。

まだ寝ぼけ眼で見上げてくる。

「ちょっと、お手洗いに行って来るだけですから」

すぐ戻ります。 言ってから一瞬の間。

「んーーー」

強い力で腕を引かれ、瀬古さんのほうへと倒れ込んだ。

そうすると彼は、わたしの耳にリップ音を立ててキスをした。

「行っておいで」