身じろぎする音と吐息と声。

簡単に想像がついた。隣のブースに入ってるカップルが情事を始めてしまったと。

狭さ、暗さ、半個室感が揃えば、公もプライベートも所構わず関係なくなってしまう理性の無さに驚きを隠せない。

瀬古さんを起こすわけにはいかないと、腕で彼の耳を塞ごうとしたとき。

瀬古さんがわたしを更に引き寄せ、強く抱きしめてきた。

「何で、寝ないの?」

「寝てますよ。わたしの心配はいいですから、寝て」

途中まで言いかけて、

「……隣気になる?」

耳元で低く呟かれる。

「……何のことですか?」

すっとぼけてみるが、バレバレ。

隣で、始まっちゃってるね。

吐息混じりの低い瀬古さんの声が、わたしの心拍数を急上昇させる。

「抱きしめていい? 抱きしめるだけ」

「……いい、ですよ」

身長はそんなに差はないのに、やっぱり男性だからだろうか。抱きしめられると、体の全てを包み込まれる。最初は弱々しく。しだいに力が込められていく。 ……気持ちいい。

俺はこんな場所でしないよ。

瀬古さんは言った。

「こうしてると、これで十分。これでいいって感じ、しない?」

「……本当に何もしない」

「嫌なこと、絶対しないです」

「……なしくずしにとか」

「いまだって、抱きしめていいですかって許可とりましたよね。許可ないこと絶対しないです」