さまよう爪

小野田さんって。

「……案外あるよね」

「ちょっと!」

「それに、柔らかい」

「何して!」

全て小声でのやり取り。

さりげなく瀬古さんはわたし胸に顔を埋めている。

「嫌だね男は」

埋めていた顔をあげて、わたしの顔を見上げた。ごめんやり過ぎた、もうしない。

わたしはそれこそ子供を見るような顔をしていたと思う。

まあ。

「本気で危ないと思ってたらまず2人で同じところに泊ろうなんて思わないし、抱き枕になんてならないですから。……それに信じてます。手を出すような馬鹿な男じゃないって」

「……それを今言うのは卑怯じゃない?」

「はい」

そう言って得意げに笑えば、彼はまた胸に顔を埋めた。本格的に寝ようとしているのか、わたしが着ているパーカーを握り、ちょうどいい場所を探すように体をよじる。

甘えるようにすり寄る彼が可愛く思えて、思わず頭を撫でていた。

彼が少しずつ眠りに落ち、わたしは心拍数が下がらない所為で眠気もこなかった。腕の中で眠る彼の姿を見て、その存在を感じてる。

彼を起こさないように出来る限り身動きせず、寒くないようにブランケットをかけ直す。




そんな時、隣のブースから妖しい吐息と堪える様な声が聞こえてきた。