さまよう爪

しばらくして、気を使ったであろう控えめなくしゃみがひとつ。

「あ、ごめんなさい」

「足じゃないから気にしないで。さすがにブランケットが小さいから上半身が寒いだけ」

そう言って瀬古さんは、ブランケットを首まで引き上げた。わたしは彼のおかげで足先があたたまり、寒さから解放されたので、少し申し訳ない気持ち。

「……抱き枕になりましょうか?」

「え?」

わたしの発言に、素っ頓狂な声。

「……あ、やらしい意味じゃなくて、わたしだけあたたかい思いして寝るのも申し訳ないし。それに体は冷えないから」

風邪でもひいたら大変だから。

「そう? じゃ、お言葉に甘えて」

さっきわたしが言った言葉を今度は瀬古さんが言って、いたずらっぽく笑う。彼の手がわたしの背中に回される。わたしは自分の手をどうしようか悩み、彼の肩を掴むように乗せた。

「本当に体あたたかいね。足先とかあんなに冷たいのに」

「冷え症なのは末端だけだから、体は逆に体温高めです」

普段から体温が高いわけではない。ただ今夜は心拍数が普段よりも多く、体温が上昇しているだけだ。

今こうして、わたしを抱き枕のように抱きしめ暖を取っている瀬古さんに対して心臓は常に壊れんばかりに拍動を続けている。煩い心臓の音が彼に聞こえてしまわないかと、心配になり少し彼から体を離した。

「動かないで。寒くなる」

そう言って、わたしの体をグイッと引き寄せた瀬古さんは、そのままわたしの胸元に顔を寄せた。

す、すみません。謝ると、

「腕、回していいよ」

体を離したのが間にある腕のせいだと瀬古さんは思ったのか、そう言ってくれた。 彼の頭の下に右腕を入れ、左手を彼の背中に回す。

腕枕って普通は男の人の役目だな。なんて思いながら、わたしの腕の中で眠りに落ちようとしてる瀬古さんを抱き締めた。