さまよう爪

しかし、早々にウトウトしてしまった。

寝るつもりはなかったのに、ハッと目が覚めると、闇の中で瀬古さんがスマホをいじっていた。

とっさに時間を訊く。

終電はもうでていた。

「何回か起こしたんだけどね」

しまったという思いとどうしようという混乱で

「電気、わたし消しました?」

と訳のわからないことを言ってしまう。

「ううん。消したほうが小野田さんが寝やすいかなって思って、俺が暗くしました」

そんな、ただの小さな思いやりが、ふいに胸に迫る。

「……ありがとうございます」

「いや。まだ寝てていよ」

と言われ、ひとまずわたしは壁に後頭部をつける。

あしもとのブランケットが体にかけられていることにも気づく。

あのこれも。言いかけてもうひとつ気づいた。

「瀬古さんはずっと起きててくれたんですか」

「どうせ寝てもこういうところじゃ眠り浅いから」

「でも疲れてるのに」

出ましょう。タクシー代もわたし出します。

暗がりで瀬古さんの腕を引っ張る。

「いやいや、そんなもったいないよ」

なかなか立ち上がろうとしてくれない。

行きましょう。いいよ。行きましょう。いいよ。行きましょう。――そんなやり取りを繰り返すうちに、

「小野田さん、声」

大きい。ボリューム下げて。

シーっと人差し指を口の前に立てる。

それで、わたしは何故かカチンときてしまい、毛布を持って立ち上がると瀬古さんの隣にドカリ。腰をおろす。

「じゃあせめて横にだけでもなってください」