さまよう爪

たくさんの本に囲まれていたら久々に漫画喫茶に行きたくなった。

受付には『ペア・カップル席でのみだらな行為は禁止。時々見回りしています』の貼り紙。

そして監視カメラで全部見えている。

ひとりと半人分ほどの大きさのフラットシートのブースで、2人で脚を伸ばし、向かい合いながらしばらく黙々と真面目に漫画を読んでいた。

そのうちに、あしもとが寒いなと脚をモゾモゾ組み換えていたら、瀬古さんが店員にブランケットを貸してもらいにいってくれる。

ありがとうございます。お礼を言う。

「なに読んでるの?」

瀬古さんは読んでいた漫画から顔をあげて訊ねる。

「コナンです。新しいキャラクターがいつの間にか増えててびっくり」

「阿笠博士が黒幕だと思っていた時期がボクにはありました」

「わたしは光彦がそうだと思ってましたよ」

瀬古さんはなに読んでるんです? と言うと漫画の表紙を見せてくる。ガラスの仮面。

少女漫画だ。かなり有名だからタイトルは知っている。マツコもファンなんだっけ。

「絵柄は少し古いけど、内容は面白いよ。どちらかというとスポ根モノ。主人公のマヤが演じることが好きでそれに対する情熱や、ライバルだけど1番の理解者でもある亜弓さんとの競い合いには引き込まれる」

「へぇーわたしもあとで読んでみようかな」